今回は、その点を数字で示してみたいと思います。
筆者はここ数年OMGの試験委員をやっている関係で、OMG関連の開発ツールを作っている会社の人と話す機会がありますが、日本のモデリング事情と照らし合わせてみて、時々違和感を感じる事があります。
下の図は、UML系モデリング・ツール(SysMLやSoaMLなどの派生系を含みます)の地域別の市場規模の推計値です。
これらの数字は、ツール・ベンダーから聞いた数字や公表資料をもとに筆者自身が推計したものであり、OMGが発表しているものでは無い事をあらかじめお断りしておきます(従って出典を弊社名としております)。
とは言え、各ベンダーの示す数字は概ね同じような傾向を示していますので、大きな誤差は無いと思います。
2010年 出典 ストラタジーナム社 |
主要ベンダーのツールは、SoaMLやSysMLがUMLと連動するよう作ってあります。
また、実際問題として、SoaMLやSysMLの市場は出来たばっかりで、市場規模はUMLに比べると小さく、この図をUMLツールの市場 シェアと見ても、大差ないと思われます。
北米が50%を占めていますが、そのうち大半がUS(合衆国)です。
欧州市場は40%を占めていますが、その40%のうちの7割ぐらい(全体比で30%程度)は英独仏の3カ国で占められています。
そして、残りの10%は、日本を含むその他すべての国を意味します。
この図で、日本のモデリング市場の特徴を見る事が出来ます。
一般のソフトウェア市場で見た場合、日本の市場規模はアメリカに次いで2番目に大きく、国別ではヨーロッパのどの国よりも大きいのが通例です。
しかしながら、モデリング・ツールの市場で見た場合、アジア市場は非常に小さく、また日本は、そのアジア市場でも必ずしも多数派ではなく、インドやオーストラリアなどと横並び状態です。
日本は決してソフトウェア投資、IT投資をしてない訳ではなく、GDP比で見ても、投資額で見ても、先進国の中では中の上くらいに位置しますが、 モデリング・ツールをあまり使わないと言う点で、相対的に異質です。
欧米の専門家は、ツールを用いないモデリングは実用性に欠けると考える人が圧倒的であり、筆者自身の経験から言っても、欧米で、ツールを使わないでモデル・ベース開発を行なっている現場を見た事がありません。
また、このポイントは、IPAのモデリング部会(筆者もOMG代表として出ております)の日本企業に対するアンケート結果に示される「モデリングの実用性に不満を持つ層が多い」と言う事実と符合します。日本は、モデリングそのものに関する知見は高いものの、実用のための知見に乏しいと言っても良いのではないか、と言うのが率直な感想です。
もちろんツールだけ知ってても何も出来ませんが、逆にUMLやSysMLだけ知ってても実用的でない、と言えます。
システム・エンジニアリング分野が、日本のITと同じ轍を踏まないためにも、ツールは無視出来ない存在です。