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2010年5月20日木曜日

アーキテクチャー:メタモデルのすすめ ④

要件分析・概念設計の日本固有の現象

創造性の軽視

前回は上流設計の重要性を書きましたが、仕事柄、筆者は開発プロジェクトに関与する事が度々ありますが、最近はつくづく、 その違いを考えさせられます。
最近は日本でもUMLの使用率がかなり上がって来ていますが、大半が実装設計以降での下流工程での使用が中心的で す。

最近はオフショア開発の条件として要件仕様をUMLで書く事が条件になるケースも多いのですが、現地のエンジニアからは、日本の UMLは要件を本当に分析したのか?とか、分析した形跡がまったく見あたらない、と言う意見を聞きます。
「要件仕様をUMLで書いてくれ」と言う リクエストは、国際的には「要件をオブジェクト指向分析設計してくれ」とほぼ同義語ですが、日本人は文字通り、単に表記法としてUMLで書く、と言う意味 で捉えられてる形跡があります。

巷間、日本の携帯電話がなぜ海外で売れないかが一時話題になりましたが、多くの人は、実装技術ではなく要 件分析等の上流工程の品質の問題を指摘していました。
本来、要件設計や概念設計は製品やサービスの価値を決める最もクリエイティブなフェーズであ り、モデリング技術も本来そのために発展して来たものですが、全体に日本のエンジニアは実装設計には熱心ですが、上流工程にモデリングを持ち込む事が苦手 なようです。

アーキテクチャーも同様な傾向が見られ、上流工程のアーキテクチャーよりも実装のアーキテクチャーにのみ関心が集中する傾向 があります。

2010年5月3日月曜日

アーキテクチャー:メタモデルのすすめ ③

前回、筆者が80年代にアメリカにいた頃の話を書きましたが、その当時は、たまに日本に帰ってくると、時間を見つけては日本の港町に旅行に行きました。
 羽田空港からそのときの気分のまま適当に切符を買い、着いた地方空港でレンタカーを借りて、気の向くままドライブしましたが、どういう訳かよく海の方、港 の方へ足が向きました。
そんなある日の事、筆者は、半日のドライブの後たどり着いた小さな漁港に面した居酒屋兼旅館と言った風情の店が気に入り、 ふらりと暖簾をくぐりました。
海の上に大きく赤く腫れぼったい天空の目のような満月が上り、そこは井伏鱒二氏の描くような浪漫的な夕暮れの港町でした。
こんな町で暮らす事が出来たら、どんなに素晴らしい人生だらうか、と若かった筆者はこの静かな美しい港町の生活を想像しながら宿を請うと、奥からごく若い 愛想の良い女将さんが宿帳を持って現れました。
女将さんは、筆者のペン先を見ながら、筆者が「神奈川県」とか「横浜市」と言った当時の住所を書いていくたびに、「はぁ〜」と深いため息をつき、「○○ 区」とか「××町」と進み、所番地あたりを書くあたりになると彼女の感嘆は最高潮に達しました。
彼女の不思議な反応が気になり、筆者は書く手を止めて顔を上げて彼女の顔を見ました。
女将さんは、「昔住んでいた町のすぐそばの所番地だったので、懐かしさのあまり声を上げて仕舞いました」、と訳を話し非礼を詫びました。
彼女は数 年前にこの港町にお嫁に来て、以来一度も横浜には帰っていなかったそうです。
そして、時たま何の目的も持たずふらりと風のようにやって来て、また 風のように去って行く旅の人が現れるが、心底羨ましいと語りました。

人間は、お互いに、自分のないものを羨むもののようです。

上流行程の重要性とその限界

ソフトウェア工学によると、ソフトウェアの品質に最も影響を与えるのは設計フェーズの品質であり、その設計 に決定的な影響力を持つのが要件フェーズです。
オブジェクト指向分析設計も歴史をひも解くと、元々は要件の分析と概念設計の為にモデリング言語が 開発されました。
従って、UMLは本来要件フェーズで最も活用されるべきツールです。
しかしながら、日本での使い方は圧倒的に実装フェー ズで実装設計のツールとしてのみ使われる事が多いようです。
本来、要件を記述するための言語であったUMLがむしろ実装設計にのみ用いられる状況 は、恐らく日本固有の現象のようです。

これは、実装のアーキテクチャーにのみ興味があり、上流部分(ドメイン側)のアーキテクチャーに無 関心な現況とも一致する現象です。

全体に東アジア圏の国々(日本、韓国、中国等)は、実装技術に強い関心を示す反面、ドメイン側に対する 興味は非情に薄いと言われていますが(興味が薄いのではなく、アーキテクチャーやモデリング技術を上流行程に持ち込む発想が薄いだけだと思いますが)、日 本はその傾向が顕著なようです。
理由はともあれ、日本は結果的に上流行程のアウトプット品質が非常に悪いと言う定評を得つつあるのは残念です。
特 徴的なのは、UMLを使わないから悪いのではなく、UMLを用い て書いた要件仕様でも、分析を行なった形跡がなく、単なる表記法としてのみ用いられていて品質の向上が見られないと言うのが平均的な現況の ようです。

昨今のこの状況に対し、日本でも要求フェーズの品質を高める事が脚光を浴び始めて来ました。
しかしながら、水をさすよ うですが、要求フェーズの品質向上だけでは、大した改善は期待出来ない、と言うのが歴史的事実です。